「浅間山・ツキノワグマプロジェクト」とは
2025年はツキノワグマが全国各地で大出没し、大きな社会問題となりました。2025年の「新語・流行語大賞」では、「緊急銃猟/クマ被害」がノミネートされ、そのうちのベスト10に選定されたほどです。クマを害獣と捉え、駆除を進めていこうとする今だからこそ、ツキノワグマの生態学的な基礎研究が重要になってくると考えています。「クマの害獣としての側面だけでなく、益獣としても捉えられる側面や生態系での役割について紐解いていこう!」としているのが、私たち里山再生学ゼミのメンバーです。
さて、私たちが注目している研究テーマについて紹介しましょう。
高山帯は、地球温暖化による気温上昇の影響を最も受けやすい脆弱性な生態系の一つです。特に、昆虫が花粉媒介を担う植物や哺乳類・鳥類などの動物が種子散布を担う植物は、その影響を受けやすいと考えられています。つまり、「花が咲いても昆虫が、実がなっても動物がタイミングよく訪れずに、花粉媒介や種子散布が行われない」といった現象が起こると予想されているのです。これは、気温の変化に対する植物側の反応と、昆虫や動物側の反応が違うことによって生じる現象です。この現象のことを「季節的な不一致」と言います。つまり、植物側が花や実をつける時期と、昆虫が花の蜜を集めたい時期や動物が果実を食べたい時期が一致しないのです。その結果として、植物は種子を作ることができず、あるいは種子が作られても遠くへ運ぶことができずに、種子繁殖によって子孫を残すことができなくなってしまいます。また、このまま気温上昇が進んだ場合、植物は、その暑さに耐えることができずに枯れてしまい、高山帯から消失してしまう可能性も考えられます。このような事態を避けるためには、高山帯の植物は気温の低く、涼しい場所、つまり高い標高へと分布域を移動させなければなりません。つまり、種子が高い標高へと運ばれる必要があります。
そこで、里山再生学ゼミナールでは、このような現象が実際に起こっているかどうかを、ツツジ科小低木(ガンコウラン・クロマメノキ・シラタマノキ・コケモモ)を対象に、2017年4月から浅間山の高山帯で調査を行ってきました。これまでの調査から、マルハナバチの仲間がクロマメノキ・シラタマノキ・コケモモの重要な花粉媒介者であること、ツキノワグマがガンコウランの重要な種子散布者であることが分かってきました。今後は、さらに詳しい生物間相互作用について紐解き、地球温暖化の影響やその対策について研究を進める予定です。
2025年度の活動報告
2024年度は、以下の研究テーマで、里山再生学ゼミの学生が調査・研究を行いました。
1.登山者向け「開花フェノロジーカレンダー」パンフレットの考案:浅間山の事例(4年生)
<目的>
浅間山を対象とし、森林帯から高山帯にかけて分布する植物の開花フェノロジーと花の形態(花色と花冠タイプ)を把握するとともに、登山者向け「開花フェノロジーカレンダー」パンフレットを作成し、Webサイトで公開する。
2.ツキノワグマ(Ursus thibetanus)によるガンコウラン(Empetrum nigrum)の上方種子散布(4年生)
<目的>
ツキノワグマは、ガンコウランの種子を高標高へ運ぶ種子散布者になりうるかどうかを、種子の酸素安定同位体の分析と発芽実験によって検証する。
3.浅間山高山帯におけるツキノワグマによるガンコウランの種子散布:散布先の標高とマイクロハビタット(3年生)
<目的>
浅間山に生息するツキノワグマがガンコウランの種子を散布する標高とマイクロハビタットの特徴を明らかにする。
4.浅間山高山帯の土壌成分特性とツキノワグマの糞排泄による施肥効果(3年生)
<目的>
浅間山高山帯の土壌成分およびツキノワグマが排泄したガンコウランの果実を含む糞の肥料成分の特性を明らかにする。
5.浅間山こども大学の講義「アサマブドウを食べたのは誰?」のプログラム開発・実施・評価(3年生)
<目的>
自然学校が主催する一般市民向けの講座を対象に、生態学を専門とする研究者が明らかにした生態学的知見を教え・伝える環境教育プログラムと教材を開発・実施し、その学習成果を評価する。
6.浅間山高山帯に生息するミヤマハンミョウの垂直分布と個体数の季節変化(2年生)
<目的>
浅間山高山帯に生息するミヤマハンミョウのハビタット選好性(標高・マイクロハビタット)とその季節変化を明らかにする。
6月7日(土)、7月6日(日)、8月8日(金)、9月2日(火)、10月12日(日)開花フェノロジー調査
森林帯から高山帯にかけての登山道沿いに咲く花の種類や時期を調査しました。花冠の形状から訪れる花粉媒介者を特定しました。

レンゲツツジの花

イワカガミの花
6月7日(土)、7月6日(日)、8月8日(金)、9月2日(火)、10月12日(日)発芽実験
昨年に引き続き、ガンコウランの発芽実験を行いました。昨年に蒔き出した種子が発芽しているかどうかを調査しました。また、新たに種子を蒔き出しました。今後は、種子を蒔き出す場所や標高によって発芽率やその後の生長がどのように異なるのかを調査します。

ガンコウランの種子の蒔き出し

ガンコウランの種子
6月7日(土)、7月6日(日)、8月8日(金)、9月2日(火)、10月12日(日)ミヤマハンミョウ調査
今年から、高山帯に生息するミヤマハンミョウの調査を始めました。ミヤマハンミョウが出現する時期、生息している標高や利用している場所(マイクロハビタット)を調査しました。今後は、ミヤマハンミョウの基礎的な生態を明らかにします。また、クロマメノキ・シラタマノキ・コケモモの花粉媒介者である昆虫類(特にアリ類)に及ぼす捕食者としての影響などを調査します。

ミヤマハンミョウの撮影

交尾中のミヤマハンミョウ
7月1日(火)クマ捕獲わな設置
昨年に引き続き、ツキノワグマが高山帯で果実を採食する行動を詳細に把握するために、捕獲したクマにGPS首輪(カメラ付き)を装着し、行動を追跡する調査を行いました。まず、この日には、クマを捕獲するためのわなを設置しました。この調査は、特定非営利活動法人ピッキオの協力を得て実施しました。

クマ捕獲わなの運搬・設置

クマチームの学生とピッキオのスタッフ
7月29日(火)クマへのGPS首輪(カメラ付き)装着
昨年と同じ場所で、同じ個体が捕獲されました。クマにGPS首輪(カメラ付き)を装着し、放獣しました。今年は、ガンコウランの果実を採食するツキノワグマの動画の撮影に成功しました。今後は、回収されたカメラの動画を分析し、ツキノワグマが夏季に採食する果実の種類や、採食行動について調査します。

GPS首輪(カメラ付き)を装着したクマ

クマチームの学生とピッキオのスタッフ
ツキノワグマがガンコウランの果実を食べる様子(クマに装着したカメラで撮影された動画)
8月8日(金)、8月9日(土)、9月2日(火)、9月3日(水)糞採集調査
昨年に引き続き、哺乳類と鳥類が排泄した糞を採集する調査を行いました。ツキノワグマが糞を排泄した場所(マイクロハビタット)を調査し、糞の中に含まれる種子の種類を特定しました。また、高山植物の開花・結実状況を調査しました。
ツキノワグマの糞の中に含まれるガンコウランの種子の酸素安定同位体比を分析し、種子が高い標高へ運ばれているかどうかを検証しました。ガンコウランの果実や種子を含むツキノワグマの糞の肥料としての栄養成分を分析しました。

浅間山の高山帯

ガンコウランの果実

ツキノワグマが排泄したガンコウラン種子入り糞

里山再生学ゼミの学生
9月2日(火)土壌採取調査
土壌を採取する調査を行いました。植物にとっての栄養成分を分析しました。今後は、貧栄養だと言われている高山帯の土壌の特徴を把握します。また、ガンコウランの果実や種子を含むツキノワグマの糞の肥料としての栄養成分を分析した結果と比較し、クマの糞排泄による施肥効果が見込めるかどうかを検証します。

山頂付近の火山灰土壌

土壌の採取
11月29日(土)環境教育プログラム「アサマブドウを食べたのは誰?」の実施
11月29日(土)にNPO法人浅間山麓国際自然学校主催の「浅間山こども大学」が小諸市民交流センターにて開校されました。里山再生学ゼミの学生は、「アサマブドウを食べたのは誰?」と題した教室の企画・運営に携わりました。参加した子ども達と保護者さんは、クイズを通じて、浅間山の高山帯で秘かに実らせる木の実(クロマメノキ〔地域名はアサマブドウ〕やガンコウランなど)を食べる動物(ツキノワグマやハシブトガラスなど)について学びました。今後は、その学習成果を分析します。

木の実クイズ&動物クイズ

里山再生学ゼミの学生
里山再生学ゼミ(高橋一秋ゼミ)とは
研究テーマ:里地里山を生息・生育地とする動植物の生態を解き明かし、生態系サービスを地域に活かす
里山再生学ゼミ(高橋一秋ゼミ)では、生態学の視点から、里地里山を生息・生育地とする動植物の生態を解き明かし、生物多様性の保全や再生に寄与する研究を行っています。また、里地里山の生態系サービスを地域社会の持続的発展に役立てるためのアイデアを産み出し、それを具現化するための手法の開発と実践を目指します。これらの研究成果を活用して、環境教育学の視点から、環境問題の解決に役立つ環境教育プログラムやESD(持続可能な開発のための教育Education for Sustainable Development)プログラムの開発と実践にも取り組んでいます。
2026年4月から、環境ツーリズム学部と企業情報学部の再編による「地域経営学部(仮称)」が開設予定です。それに伴って、里山再生学ゼミ(高橋一秋ゼミ)は「地域経営学部(仮称)、地域サステイナビリティコース・環境ツーリズム領域」に移ります。研究テーマは変わることなく継続し、これまで以上に、新たな価値を創造しつつ、サステイナブルな(持続可能な)地域社会の実現を目指します。
<研究分野>
動植物生態分野:生態学をベースに里地里山の動植物の生態を明らかにし、保全策を提案します。また、保全策を実施し、里地里山の再生・保全に貢献します。
環境教育分野:里地里山の動植物の生態や特徴を学ぶプログラムや教材を開発・実施し、その学習成果を評価します。これによって、次世代を担う人材の育成に貢献します。
エコツーリズム分野:里地里山の動植物や生態系サービスを題材としたコンテンツを作成し、エコツーリズムの推進に貢献します。
生態系サービス分野:里地里山の生態系サービス(供給、調整、文化、生息・生育地サービス)を再生・保全しつつ、活用するアイデアを考え、実施します。これによって、地域社会の持続的発展に貢献します。




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教員紹介
教授
高橋 一秋
タカハシ カズアキ
所属
環境ツーリズム学部、地域経営学部