「浅間山・ツキノワグマプロジェクト」とは
高山帯は、地球温暖化による気温上昇の影響を最も受けやすい脆弱性な生態系の一つです。特に、昆虫が花粉媒介を担う植物や哺乳類・鳥類などの動物が種子散布を担う植物は、その影響を受けやすいと考えられています。つまり、「花が咲いても昆虫が、実がなっても動物がタイミングよく訪れずに、花粉媒介や種子散布が行われない」といった現象が起こると予想されています。これは、気温の変化に対する植物側の反応と、昆虫や動物側の反応が違うことによって生じる現象です。植物側が花や実をつける時期と、昆虫が花の蜜を集めたい時期や動物が果実を食べたい時期が合わなくなってくるのです。その結果として、植物は種子を作ることができず、あるいは種子が作られても遠くへ運ぶことができずに、種子繁殖によって子孫を残すことができなくなってしまいます。また、このまま気温上昇が進んだ場合、植物は、その暑さに耐えることができずに枯れてしまい、高山帯から消失してしまう可能性も考えられます。このような事態を避けるためには、高山帯の植物は気温の低い高い標高へと分布域を移動させなければなりません。つまり、種子が高い標高へと運ばれる必要があります。
そこで、里山再生学ゼミナールでは、このような現象が実際に起こっているかどうかを、ツツジ科小低木(ガンコウラン・クロマメノキ・シラタマノキ・コケモモ)を対象に、2017年4月から浅間山の高山帯で調査を行っています。これまでの調査から、マルハナバチの仲間がクロマメノキ・シラタマノキ・コケモモの重要な花粉媒介者であること、ツキノワグマがガンコウランの重要な種子散布者であることが分かってきました。今後は、さらに詳しい生物間相互作用について紐解き、地球温暖化の影響やその対策について研究を進める予定です。
高橋一秋のWebサイト:
2024年度の活動報告
2024年度は、以下の研究テーマで、里山再生学ゼミの学生が調査・研究を行いました。
①ガンコウランの冬季種子散布に及ぼす積雪の影響(4年生)
<目的>
「冬季であっても、一部のガンコウランは積雪の影響を受けずに、鳥類や哺乳類が果実を利用し、種子散布にも貢献する」といった仮説を検証する。
②登山者向け「開花カレンダー」パンフレットの考案:浅間山の事例(4年生)
<目的>
浅間山を対象とし、森林帯から高山帯にかけて分布する植物の開花フェノロジーと花の色や形態を把握するとともに、登山者向け「開花フェノロジーカレンダー」パンフレットを考案する。
③ツキノワグマはガンコウランの種子を高標高へと運ぶのか?~地球温暖化からガンコウランを救うのは、クマか?~(3年生)
<目的>
ツキノワグマは、ガンコウランの種子を高標高へ運ぶ種子散布者になりうるかどうかを検証する。
④浅間山高山帯におけるツキノワグマによるガンコウランの種子散布:散布先の標高とマイクロハビタット(2年生)
<目的>
浅間山に生息するツキノワグマがガンコウランの種子を散布する標高とマイクロハビタットの特徴を明らかにする。
⑤浅間山高山帯の土壌成分特性とツキノワグマの糞排泄による施肥効果(2年生)
<目的>
浅間山高山帯の土壌成分およびツキノワグマが排泄したガンコウランの果実を含む糞の肥料成分の特性を明らかにする。
5月11日(土)糞採集調査
鳥類が排泄した糞を採集する調査を行いました。糞を排泄した鳥類の種類を特定するために、糞の表面に付着した鳥類のDNAを分析しました。
鳥類が排泄した糞を採集する調査
石の上に排泄されたガンコウランの種子が含む糞
7月7日(日)種子実験
ガンコウランの種子を蒔き出し、発芽実験をスタートさせました。今後は、種子を蒔き出す場所や標高によって発芽率やその後の生長がどのように異なるのかを調査します。
ガンコウランの種子の蒔き出し
ガンコウランの種子
8月10日(土)糞採集調査
哺乳類と鳥類が排泄した糞を採集する調査を行いました。ツキノワグマが糞を排泄した場所(マイクロハビタット)を調査し、糞の中に含まれる種子の種類を特定しました。また、高山植物の開花・結実状況を調査しました。
哺乳類・鳥類が排泄した糞を採集する調査
浅間山チームの学生
8月11日(日)糞採集調査
哺乳類と鳥類が排泄した糞を採集する調査を行いました。ツキノワグマが糞を排泄した場所(マイクロハビタット)を調査し、糞の中に含まれる種子の種類を特定しました。また、高山植物の開花・結実状況を調査しました。
ガンコウランの果実や種子を含むツキノワグマの糞の肥料としての栄養成分を分析しました。今後は、ツキノワグマの糞の中に含まれるガンコウランの種子の安定同位体比を分析し、種子が高い標高へ運ばれているかどうかを把握します。
ガンコウランの果実
ツキノワグマが排泄したガンコウラン種子入り糞
8月26日(月)クマ捕獲わな設置
ツキノワグマが高山帯で果実を採食する行動を詳細に把握するために、捕獲したクマにGPS首輪(カメラ付き)を装着し、行動を追跡する調査を行いました。まず、この日には、クマを捕獲するためのわなを設置しました。この調査は、特定非営利活動法人ピッキオの協力を得て実施しました。
クマ捕獲わなの設置
クマチームの学生とピッキオのスタッフ
9月6日(金)クマへのGPS首輪(カメラ付き)装着
捕獲されたクマにGPS首輪(カメラ付き)を装着し、放獣しました。今後は、回収されたカメラの動画を分析し、ツキノワグマが秋季に採食する果実の種類や、採食行動について把握します。
捕獲わなの中のクマ
GPS首輪(カメラ付き)を装着したクマ
9月10日(火)土壌採取調査
土壌を採取する調査を行いました。植物にとっての栄養成分を分析しました。今後は、貧栄養だと言われている高山帯の土壌の特徴を把握します。また、ガンコウランの果実や種子を含むツキノワグマの糞の肥料としての栄養成分を分析した結果と比較し、クマの糞排泄による施肥効果が見込めるかどうかを把握します。
土壌の採取
浅間山チームの学生
関連リンク
教員紹介
教授
高橋 一秋
タカハシ カズアキ
所属
環境ツーリズム学部