2026年9月20~21日の台風25号による大雨で土砂災害が多発した千葉県房総半島と神奈川県三浦半島を対象に解析領域(4,719km2)を設定し、大雨前後の光学衛星データを用いて計算したNDVI(正規化植生指数)差分値から、土砂流出推定範囲を抽出しました。さらにその抽出値を使用し、崩壊地を生産源とする土砂・流木量(崩壊生産土砂量・発生流木量)の推定値を計算しました。
その結果、図1~図3に示したようにきわめて広域に土砂流出範囲が確認され、房総半島と三浦半島を合わせて全体で約1,800箇所あることがわかりました。ただし房総半島北部~中央部では8月13~14日の大雨でも土砂流出があり、今回の推定数の一部にはこのときの発生が含まれている可能性もあります。市街地周辺でも小規模ながけ崩れが多発しており、比較的傾斜の緩い場所でも土砂流出が発生していたと考えられました。
次に単位面積あたりの土砂・流木量は房総半島のみを対象に計算しました(図4と表)。今回の事例は2014年から整理した既往の土砂災害に比べると平均的な回帰直線よりも高い位置にプロットされることがわかりました。
千葉豪雨とその後の台風による大雨では、能登半島と同程度の約1,300~1,800箇所で斜面崩壊が発生しました。両事例の48時間雨量も約390mmとほぼ同じでしたが、崩壊に伴う土砂・流木量は房総半島が能登半島の約半分(130万m3)にとどまりました。1km2の単位面積あたりで比較すると、約1/3(1万m3/km2)でした。この違いには、能登半島地震による斜面の不安定化や山地における斜面傾斜の違いが大きく影響したと考えられます。





抽出結果は以下HPのGoogle My Mapsに公開しましたので、ご活用いただければ幸いです。
https://sites.google.com/view/hiromiakita/ホーム
(抽出手法についての説明)
近年は斜面崩壊や土石流といった土砂移動現象による土砂災害が広域的に発生するケースが見られ、災害後の応急復旧のためにも土砂流出の発生場所とその範囲を把握することが必要です。このような応急対応に資する情報発信を目的として、土砂流出推定範囲を抽出する手法の開発に取り組んでいます。
Sentinel-2衛星データを使用し、NDVI差分値に閾値を定めて二値化画像を作成し、斜面傾斜角により土砂流出の推定範囲を抽出します。
-使用した光学衛星データ-
Sentinel-2/MSI(分解能10m、L2A)
大雨前:2025年11月7日AM8:59(JST)撮影
大雨後:2026年10月18日AM8:59(JST)撮影
※GISアプリケーションは、ArcGIS Pro(ESRI)を使用。
解析領域は、強雨域を広域にカバーするように設定します。なお、使用した衛星データは空間分解能10mであるため、この大きさよりも小さい変化は明瞭に捉えられません。斜面崩壊や土石流などの土砂移動現象により裸地化した範囲は図5のようにNDVI差分値が大きくなり、白色であらわれます。
次にNDVI差分値に閾値を定め、土砂流出の可能性のある範囲を抽出します。閾値は0.20以上を適用し1)、土砂流出の可能性のある範囲を抽出します。加えて、国土地理院10mDEM 2) を使用して解析領域での傾斜角を整理し、既存の調査結果など 3)4) から、斜面傾斜角15度以上を土砂流出推定範囲と判断しています。

(土砂・流木量の推定値の計算手法についての説明)
崩壊地を生産源とする土砂量(崩壊生産土砂量)は、秋田(2025)5)の崩壊生産土砂量推定式を使用し、個々の土砂流出範囲の面積値から傾斜角・48h積算雨量(年平均雨量で基準化,アメダス観測所より)の2つをパラメータに計算しました。崩壊地からの発生流木量は、崩壊生産土砂量を入力値として、過去の流木災害事例をもとに統計的に構築した秋田ら(2025)6)の発生流木量推定式を使用し計算しました。
これら計算手法の詳細については、下記の引用文献をご参照ください。全文が見れない方は、著者にご連絡ください(hiromi-akita@nagano.ac.jp)。
(参考文献など)
1)秋田寛己(2025): 高頻度な中分解能光学衛星データを活用した土砂流出推定範囲の抽出と公開, 砂防学会誌, 78(2), 33-38.
2)国土地理院: 基盤地図情報, https://www.gsi.go.jp/kiban/
3)国土技術政策総合研究所 (2016): 砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説
4)林野庁森林整備部 (2019): 土石流・流木対策指針解説等
5)秋田寛己(2025): 崩壊生産土砂量推定式のパラメータα値・γ値のモデル化ならびに推定式改良手法の提案,砂防学会誌,78(1),3-13.
6)秋田寛己,今泉文寿,中谷洋明,堤大三(2025): 過去40年程度の発生・流出流木量の経年的な変化傾向とその関連要因の分析,砂防学会誌,77(5),3-10.
関連リンク
教員紹介
准教授
秋田 寛己
アキタ ヒロミ
所属
共創情報科学部