朱白の皆様と今後、具体的な事業の展開を進めていきます
発表会に参加いただいた朱白の関係者の皆様
論理をもとに朱白様の今後をターゲットを特定しながら考えてきました
企業情報学部の森ゼミナールでは、「企業イノベーションプロジェクト」と題し、イノベーション論やマーケティング論、経営戦略論などの理論研究を基礎にして、食品、飲料、製菓、メーカー、ホテル、化粧品、サービス、アパレル、流通小売、銀行・金融などの地域企業の問題解決活動(コンセプトの策定や商品・サービスのデザインなどの価値創造活動)を推進しています。
森ゼミ第5チームは、上諏訪温泉 双泉の宿 朱白様(諏訪市)のイノベーション研究を推進しており、11月7日のヒアリング調査をもとにここまで検討を重ねてきました。この度、同社へ向けてその成果を最終発表しました。
最終発表日
2025年1月22日
発表場所
長野大学
発表先
上諏訪温泉 双泉の宿 朱白
発表会に参加いただいた皆様
アルピコホテル社長 深澤 洋充様
朱白総支配人 牛越 泰三様
朱白支配人 三角 秀徳様
メンバー
森ゼミ生(坂本 優哉、三井 ゆき菜、吉澤 拓玖、阿部 彩夏、杉山 直歩、宮本 祥吾、浦田 華、堅田 吏玖)
提案報告の概要
・ 提案を考えるにあたって参考にしたテキストは伊丹敬之氏の「経営戦略の論理」という本。これを読み砕き、目的を達成する戦略に必要なことを学び、私たちの班なりにこのテキストの内容をまとめ、朱白様にあてはめ、戦略を考えた。
・ 目標を定める背景には、高価格低稼働があり、繁忙期と閑散期を合わせて一年を通して月平均の稼働率を60%~70%と設定した。高稼働低価格を達成するには顧客満足度を上げ顧客単価を引き上げる必要がある。そのためには、外的要因の影響を受けない朱白様独自の取り組みを経て長期的な収益につなげていく。その結果、季節の影響を受けない旅館になり、諏訪地域の閑散期でも高稼働低価格での運営を行うことが出来れば、一年間を通して顧客単価が上がると考えた。それを踏まえて、目標は月平均稼働率が60%~70%かつ上諏訪温泉で売上一位と定めた。ありたい姿は『これからの自分を考える「気づき」の「きっかけ」を与える朱白』とした。ありたい姿を目指すためには3つの変数を考える必要がある。
・ 一つ目は、製品・市場ポートフォリオを決める必要がある。
・ 製品ポートフォリオ(以下、PTF)は「気づき」の「きっかけ」を生む旅館業と、「気づき」を支える小売業の二つを将来的に持ちたいと考えている。この二つの事業を合わせて朱白様の魅力になると考えた。
・ 市場PTFは生活にこだわりがない人と定めた。これらの顧客は仕事や日常生活を淡々と過ごすことが多いと考えた。この生活を送っていることは悪くはないが、満足している人は少ない。こだわりを持つことで質の高い生活を送ることが出来る。
・ 二つ目は、ビジネスシステムの策定。始めに、市場調査と分析を行う。自社で調査・企画を行ったのち、システム作りを行う。システム作りでは、館内デザイン・プロデュース、朱白プロジェクトチーム、自社EC、行動指針などは企業内部で行う。その後、モニター利用を内外で行う。利用後、フィードバックを踏まえた企画改善を行い、広報を経て、サービス提供を始める。その後顧客情報を得る仕組みを充実させ、サービス向上へとつなげていく。
・ 三つ目は、経営資源PTF。経営資源ポートフォリオはヒト・モノ・カネ・見えざる資産の4つにまとめた。ヒトには、バリスタなどの専門技術を持ったスタッフや各部門のプロジェクトリーダー、また向上心があり、朱白様のことを理解している従業員などが挙げられる。モノには、旅館・顧客情報を処理するシステムや広告、温泉などが当てはまる。見えざる資産は、ノウハウや技術、また顧客からの信頼やブランドイメージ、協力企業とのつながりなど。これらを踏まえて、ありたい姿は、これからの自分を考える、「気づき」の「きっかけ」を与える朱白とした。
・ 現在のオールインクルーシブでは食べ飲み放題に価値を感じている人が多数。しかし私たちは従来の特徴である、追加料金がいらないからこそ、新たな体験や挑戦へのハードルの低さを活かす。その結果顧客自身で新たな気づきを感じてもらい、今後の生活を豊かにしてもらおうと考えている。この新しいオールインクルーシブで、自分と向き合える空間を顧客に提供し、「これからの自分を考える」きっかけを生み出す。
・ 現状からありたい姿に向かうための具体的な行動の変革のシナリオを考える。
・ 戦略を作る際にぼやけた発想にならないためにターゲットの絞り込みが大切。今回定めたターゲットは「仕事に追われ、現状維持の生活に不安がある25~30代の社会人」とした。
・ またターゲット を広くせず、狭いものに絞るという意味で捨てる選択をする。今回捨てる顧客はワークライフバランスが充実している人や家族や団体での利用客、金銭的余裕のない若年層。
・ これまでの顧客に生みたい変化とそのために企業の与える価値は以下の通り。まず、朱白様での宿泊体験を通して自分へのこだわり、ひと手間かけることの大切さに気付く。そして、自分と向き合い、気づき、顧客自身の生活に取り入れてほしいと考える。その結果、生活や仕事への考え方に変化が生まれると考えている。
・ ニーズの束は製品そのものと価格、補助的サービス、ブランドの4つに分類されます。1つ目の製品そのものは、空間で創るオールインクルーシブや客室・温泉、お土産屋やECのアイテムが挙げられる。2つ目は一年間を通して価格差の少ない価格。3つ目の補助的サービスには、決済手段のバリエーションや、HP・広告、予約手段が挙げられる。4つ目は、接遇や口コミによる顧客からの信頼やアルピコグループというブランド。以上を踏まえ訴求ポイントの核は、「空間で創るオールインクルーシブ」。
・ 一歩目は、「空間で創るオールインクルーシブ」の土台作り。プロジェクトチーム作り、朱白の間を構築、体験で使うこだわりアイデムなどの準備、朱白様のHPやFBの仕組みづくり、製品プロデュースのための協力企業の選定・交渉、従業員の意識か聞くとしての、「朱白3つのお約束」を作る。
・ 温泉と料理で顧客に気づいてもらおうと思っている価値は、温泉の方では、情報を極限まで減らし、絶景と自分だけの空間でゆっくりと浸かることでぼーっとするだけでなく自分自身と向き合うことができ、今までの生活などを振り返ってもらう。ここでせわしない時間をいったん止めて、お風呂の時間を休息として使っていなかったな、と気付いてほしい。料理は、職人が自分のために目の前で完成してくれるところや匂い、自分のさじ加減で作る事や自分で選んだものを食べ、自分自身でひと手間にこだわることで生まれる時間をかけた生活への楽しさに気づいてほしい。
・ 朱白の間は食事処の一角を、時間によって変化させようと考えている。二つに共通するテーマは「すまほを離す、じぶんと話す」。ここにいる時間はスマホで暇をつぶすことは勧めずに、スマホは体から離し、包まれるイスで飲み物と一緒にぼーっと自分と話す時間。
・ 夕方の温泉後、「朱の間」として五感であたたかみを感じて欲しいと考えている。飲み物はアールグレイやダージリンといった紅茶、緑茶、コーヒーなど、あたたかくてホッとするようなものを考えている。飲み物を飲む前から癒やされるように心地よいドリップ音や匂いも感じて欲しい。
・ また、夕食後は「白の間」とし、テーマは星空をイメージしている。ここでは信州の地酒など、このような種類のお酒を置くことを考えている。来た人に対して、今の気分を聞き、それに合うお酒を提供することを考えているため、メニューは置かない。
・ ニーズの変化を見越した戦略展開として二の矢・三の矢というつぎの攻め手を準備しておくこと。
・ 二の矢としてはひみつのお道具箱という施策を打ち出す。二の矢としてはひみつのお道具箱という施策を打ち出す。顧客にこのサービスが届くまでの流れとしましては、宿泊後QRコード付きのハガキが送られてきて、読み取るとECサイトが開ける。一歩目から生まれた旅館で自ら「気づき」を得た顧客が、自分と向き合う時間の大切さや、何かにこだわることについて考えていくことを想定している。そこから帰宅し仕事に追われる日々に戻っても朱白からのハガキで体感したことを思い出すことができる。ECには自分が気付いたことを行動に移せるアイテムが用意されている。朱白は顧客が気付くだけではなく行動にまで移せる働きかけをする。このECサイトが顧客の「気づき」を支える小売業。こちらで販売・提供するものを朱白様が考えているため、システムは外注したとしてもプロデュースや最終確認は朱白様でやるものと考えている。秘密のお道具箱の詳細として、現時点ですり鉢やグラス、コーヒー豆といった朱白内での体験をもとにした商品を考えているが、朱白総会や口コミといった顧客からのフィードバックを秘密のお道具箱で展開するアイテムにも生かしていく。
・ 企業にとって味方になる顧客には役割が3種類ある。広告塔は、顧客が無意識に企業にとって広告の役割をしてくれる。信者は広告塔よりも意識的に宣伝を行う。保護者は、競争相手の攻撃から自社の製品を保護してくれる人のこと。
・ 顧客の役割については、自社の口コミサイトに無意識に書き込んでいる顧客が広告塔になると考えている。
・ また、いい気づきができ、また行こうとする保護者、この宿泊体験が素晴らしかったと意図的に広める信者が生まれると考えている。
・ 二の矢では、買った商品を無意識的に広める広告塔や、意識的によかったところを広めていく信者、またこのサイトでの商品が手になじみ、他のサイトから商品が買えなくなるような保護者が生まれると考えている。
・ 顧客の企業への貢献には3つのタイプに分けられ、それを組み合わせて持つことが企業の長期的な成長につながる。3つのタイプの役割は以下の通り。
・ 収益性と成長性の貢献は現在と将来の売り上げと収益の貢献であり、見えざる資産の蓄積は、技術や、企業の信用の確立などの見えざる資産を蓄積してくれる貢献を指す。これら3つの貢献のタイプをミックスして持つことが重要。また見えざる資産の蓄積の中には、教師役の顧客がいます。この顧客は、現状の利益は少ないが、製品などに対して要望を出し、それに企業が対応していく中で技術などが向上していくための顧客がいる。この顧客を意図的に持つことで技術やノウハウといった見えざる資産が蓄積され、より成長していく。
・ 貢献のミックスはまず、旅館業では「広告塔」は初回利用により収益性を高め、「保護者」は再び宿泊することで朱白自身の成長性を向上させる。そして「信者」は朱白の魅力を他者へと広めることで「見えざる資産」の蓄積に貢献してくれる。二の矢でも同じような役割が考えられる。保護者のうち朱白を継続利用することにより、いい点だけでなく、不満点をフィードバックで伝えてもらえる教師役の顧客も生まれると考えている。
・ まとめると、目標は月平均稼働率が60~70%かつ上諏訪温泉で売上1位とし、ありたい姿はこれからの自分を考える「気づき」の「きっかけ」を与える朱白と定めた。そして、仕事に追われ現状維持の生活に不安がある25~30代社会人をターゲットとした。具体的なサービス案として、一の矢では、朱白の間などで、気づきのきっかけを生む旅館業を考え、二の矢では、そこでの気づきを支えるための「ひみつのお道具箱」という小売業を考えた。
顧客に気づいてもらいたい価値をこのように設定します
発表に耳を傾け、資料を確認いただきつつ、事業実施に向けて建設的なコメントを頂戴します
空間で創るオールインクルーシブ
朱と白のそれぞれの間を設定します
提案をまとめ今後の事業の展開について整理します
同社への最終発表を終えての森ゼミ生の感想と、今後のイノベーション研究の展望は、以下の通りです。
発表を終えての意見交換
いただいた質問
1) 目標やありたい姿から考えるのはなぜ?
2) この度、当社に焦点を当ててもらったのはそもそもなぜ?
3) ターゲットってどこに住んでいる人?
これらの質問に対して、以下のように回答した
1) 今回使わせていただいたテキストによると、目標は数値的なもので従業員がどうやって動けばいいのか分からないから企業での動き方を内部で分かりやすくして目標に近づいていくためにありたい姿が必要だから。朱白様は戦略を作る時によく用いられるSWOT分析などを使われていた。しかし、テキストではありたい姿とは、現状の姿からみて、可能かどうかを判断するのではなく、いまだあらざるありたい姿を描いた後にその姿と現状の姿の間にはどんな課題があり、どんなシナリオを描き1歩目を踏み出すのかという考え方を説明した。
1) 朱白様は、旅館業を営む旅館の中でも、上諏訪温泉でオールインクルーシブ×信州の魅力で独自性のある展開とSNSなどの積極的な事業姿勢に魅力を感じたから。それぞれが何個か企業の候補を出していた中で、割と大きな企業で色々出来そうっていうのと、単純に旅館業が楽しそうだったから
2) 朱白様まで関東圏や名古屋の電車でのアクセスがしやすい層をターゲットに持ちたいと考えた。理由は、ターゲットは季節波動を受けずに朱白様自体に魅力を感じて旅行してほしいことと、車通勤が多い県内ではなく、広告の可能性が広がる電車通勤の層を考えているから。
今後については、1)朱白の間の場所どこにするのか、2)価格帯の設定、3)広告をどこに打ち出すのか、等を朱白様と検討しながら、今後、この取組をすすめていくことを相互に確認するに至りました。朱白の皆様、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
【以上、森ゼミ生のまとめより】
発表内容を踏まえ、今後の事業展開の内容を相互に確認し、協議します
これから具体的な事業展開について相互に確認していくことになりました
関連リンク
教員紹介
教授 / 学部長
森 俊也
モリ シュンヤ
所属
企業情報学部