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学長コラムNo.18
プロジェクトの風景

サフラン:筆者宅

様々な場所でいろいろな人たちが集まり、プロジェクトを組み議論する。単純なテーマでの議論からかなり複雑でどこに収束するのかわからない議論まで多種多様である。一人で考えるよりはるかに素晴らしい結論になることが多い。最近は、一方面から眺めるだけでは駄目で、様々な角度から眺め結論を導かなければならない。「共創」という言葉で表現されている。

本学でも研究課題や地域課題を解決するためにプロジェクトを組む。そこにはいろいろな専門家が集まり議論している。最近扱っている一つのプロジェクトが面白いので紹介してみようと思う。本学がある上田地域での食に関するプロジェクトである。上田地域にも他にはない食材、伝統的な食べ物、発酵食品などがたくさんある。本プロジェクトでは、①食産業に興味を持つ学生を多く育成するための活動と、②この地域ならではの食産業を如何に発展させるかの研究に取り組んでいる。①は、年間を通して全学の学生を対象に授業を行っている。約80名が受講。将来的には、食に関する起業家の輩出を目指している。一方、②については、食に関する様々な人たちを集めたコンソーシアムを立ち上げ、本地域における食産業発展のための課題について定期的な議論を展開し、新たな食産業を生み出そうとしている。

どんなプロジェクトも同じであるが、優秀なリーダーとそれを取り囲むスタッフの存在が重要である。本コンソーシアムにおいては、幸いなことにリーダーは企業経験が豊かでしっかりした問題意識を持った方であり、本学の特任客員教授をお願いし本学の教員とタッグを組み推進していただいている。さらにその周りには、食にかかわるマーケッティングの専門家(本学の特任客員教授)、日本料理研究会リーダー、世界で活躍しているビジネスコンサルタント、健康、脳科学の専門家、食産業に関して地元で活躍されている複数の会社社長等、多彩な方々がメンバーとなっていただいている。またプロジェクトには大手企業から寄付をいただき、大学における寄付講座を開設している。

この様な背景のもとでプロジェクトが進行しているが、最も興味を惹かれるのは、プロジェクトリーダーの人的ネットワークにより、トップレベルのシェフが本学に来ていただけることである。彼らが考える食とは何か、プロフェッショナルとは何か、どんなところに価値を見出し、モチベーションを高めているかなど、学生にとっては、普段聞くことができない貴重な体験談を、授業を通し聞けることだ。シェフが何気なく言った言葉に学生は耳をそばだてて肌で感じている。大学教員の授業とは明らかに異なる特徴ある授業が展開されている。この様な授業を通し食産業への魅力が少しずつ伝わり、将来起業を目指す学生が出てくるものと確信している。

コンソーシアムでの研究に関する議論も面白い。その日のテーマをきちんと決めるのではなく、ある程度の方向性の中で議論を始める。そしてリーダーは「無茶ぶり」をする。でもメンバーが多彩なので、思いつきで意見を次々述べる。これが結構核心の議論に展開していく。先日の議論では、シェフは今何を考えているかの議論になった。そこに参加していたシェフは、料理の技術は磨けばだんだん良くなるので、そこにはあまり関心はない。料理はやはり素材で決まると強調した。農産物生産者、漁師との繋がりをすごく大切にしている。良い素材を求めるには、ここが肝心である。しかし最近は地球温暖化の影響で良い食材が採れなくなった。また魚は移動してしまい、今までの場所では捕れなくなったそうだ。農産物生産者、漁師はこの変化にいち早く気付いているはずである。この様な状況にどう対処していけばよいか、悩んでいるそうである。他のメンバーは食材提供者を変えるしかないのではないかと発言したが、そんな単純な話ではなさそうだ。つまり人との関係性の中で仕事をしているのである。まだ答えはない。一方、別な視点で考えると本地域も例外ではない。今ある食材が安定的に確保できる保証はない。むしろ変化することを想定し、食産業を考えなければならない。

本プロジェクトは今年度スタートしたばかりであるので、成果を出すにはまだ時間がかかる。今年を含めてプロジェクト期間は2年間である。今までにないメンバーが大学構内に集まり議論している姿を見ていると、本学の大きな変化が感じられる。