秋田竿燈まつりは、秋田市で8月3日~6日までの4日間行われる夏祭りである。青森ねぶた祭、仙台七夕まつりと並んで東北三大祭りと言われている。その他、盛岡さんさ踊り、山形花笠まつりもあり、東北各地で祭りが盛大に行われている。東北の人達は、冬の厳しい環境に耐えそのエネルギーをこのお祭りで爆発させ、気持ちの整理を行っているようである。
筆者は、本学に赴任する前、秋田県立大学で教育に携わり16年間秋田で過ごした。長年暮らしたが、冬の秋田だけは何年経っても慣れることはなかった。11月から翌年の3月までは毎日雲が低く垂れ込み、薄暗い日々がずっと続くのである。毎日が憂鬱であり、頑張ろうという気持ちにはなかなかなれない。太陽の明るさ、澄んだ青空が人間の気持ちに如何に必要か、しみじみと感じた次第である。でもまだ私はましである。大学での任期が過ぎればこの地を離れることができる。この地でずっと生活している人達は本当に大変である。地元の人達の話を聞くと、秋田の夏祭り、大曲の花火大会が終わると、その時点から冬に向かって気持ちがどんどん沈んでいくというのである。つまり9月の初めから翌年の3月までずっと沈んだ気持ちが続くということになる。北欧やヨーロッパ大陸の北の地方の人達と同じ感覚だと思う。従って切実な思いで春や夏を待つのである。そんな気持ちの変化を1年を通して感じているのであるから、夏祭りを待ち遠しく思う気持ちは、この地で暮らしたことがなければ、正直理解は難しい。
さて、秋田竿燈まつりに話を戻そう。秋田県立大学には、学生の部活動として竿燈サークルがあり、秋田竿燈まつりには県大竿燈会として登録されている。ほとんど県外者であり、部員は60名から70名と大きなサークルである。秋田竿燈まつりを初めて近くで見て感動し、私も是非やってみたいと入部してくるのである。男女半分ずつとバランスがとれている。男子は差し手と呼ばれ、長さ12m、重さ約50kgの竿燈(大若)を「手のひら」「額」「肩」「腰」などで自在に操る妙技が見ものである。竿燈は提灯の数が46個で、たわわに実った稲穂にみたてている。一方、女子は囃子方と呼ばれ、笛と大太鼓でリズムを刻み、竿燈を盛り上げる。もちろん男性も混じっている。サークルは1年を通して活動し、差し手、囃子方共にかなり上達する。部員達はお互いに技を磨き合い、さらに上達するのである。
秋田竿燈まつりは、それぞれの町内や企業・団体で竿燈会を作り、それらが参加することで構成されている。しかし、勝手に作って参加できるわけではなく、大会本部の審査に合格して初めて参加が認められる。県大竿燈会は、初日には、秋田県庁前に集合し、出陣式を行う。元々県大竿燈会は秋田県庁竿燈会から指導を受けてできたので、いつも並んで参加する。知事と学長の挨拶で始まり、学生達は円陣を組み大声で気合いを入れ出陣する。夕方5時とはいえ、まだ夏の日差しが強く汗が噴き出してくる。1竿燈会あたり2本の竿燈を出す。トラックにはお囃子に必要な大太鼓を乗せ、たくさんの飾り付けを行い照明も備える。各竿燈会は、トラックの後ろに並び、2本の竿燈を倒した状態で隊列を組み移動する。この時笛、大太鼓は入場用のお囃子で盛り上げる。祭り全体では約280本の竿燈が出るので、指定された場所に順番通り移動し、定位置に付くのに1時間ぐらいの時間を要する。秋田竿燈まつりは、片道3車線の通称竿燈大通りの上り、下り線に沿って縦列体系を取り、途中の折り返しの地点でシームレスに繋がる。長さは約1.2kmぐらいである。
ようやく周りが薄暗くなり、いよいよ秋田竿燈まつりが始まる。観客は、竿燈大通りの上り、下り線の間の中央分離帯に作られた特設スタンドと歩道から見守る。「竿燈はじめ」の合図でお囃子が始まり一斉に竿燈が上がる。それは見応えがある。筆者は毎年参加し通算12回を数えた。私たちは騎馬提灯を持ち、隊の先頭に立つ。秋田県立大のお囃子は優勝するほどの腕前であり、実に見事である。中からは観客の顔がよく見え、みんなお囃子のリズムに真剣に耳を澄ます。竿燈は、次から次へと差し手が代わる。結構不安定であり時々倒れる。その都度観客からは悲鳴にも似た声が上がり、ますます盛り上がる。すべての提灯には蝋燭の火がともされているので、竿燈が倒れると何本か火が消える。それを急いで修復しまた上げる。連続して上げている時間は約15分ぐらいだろうか。そして全体を移動させ次の演技が始まる。全体で3回の演技である。学生達は終始笑顔で礼儀正しく、観客から大きな拍手を受ける。さすがである。祭りは見るよりも参加する方がずっと楽しいことを実感した。演技が終了すると観客との触れ合いタイムとなる。皆さん竿燈に触ってどのくらい重いか感じてみる。またお囃子を行った学生の指導の下大太鼓を叩いてみる。皆さん笑顔に包まれている。こうして一夜の竿燈まつりが午後9時過ぎに終わる。
2日目と3日目は昼間、妙技会が行われる。つまり技術を競う大会である。各竿燈会の実力者が参加するので、上位入賞は大変難しい。皆真剣に演技をし、審査も厳格である。でも県大竿燈会は大若部門で個人入賞するほか、囃子方は筆者の在職中はかなりの確率で優勝していた。技術はもちろんのこと笑顔、身のこなしが備わった優勝である。
もし興味がわいたなら、機会を作ってぜひ秋田竿灯まつり見てほしい。ただ、宿泊が大変なので、宿泊の確保は早めにすることをお勧めする。

