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学長コラムNo.7 アントレプレナーシップ教育

11月22日、コラボ産学官が主催する第16回コラボ学長フォーラムに参加した。フォーラムはすべてオンラインでほとんど違和感がなくだいぶ定着してきた感じであった。
テーマは「人材育成における産学官連携の役割の進化」である。コラボ産学官は、今から20年前に立ち上がり、大学、企業、金融機関などが連携して大学の教育研究を積極的に支援する組織である。長野大学は、この組織のメンバーではないが、この組織から生まれた「スーパー連携大学コンソーシアム」の会員校であり、そんな関係でフォーラムを拝聴することができた。コラボ産学官に参加している五大学の学長からそれぞれの大学における産学連携教育の話があったが、一番興味があったのは、アントレプレナーシップ教育についてである。

北海道大学 産学・地域協働推進機構スタートアップ創出本部 アントレプレナーシップ教育部門長 椎名希美氏の特別講演「100年先を見据えた産学官連携による人材育成―アントレプレナーシップを育むエコシステム形成を目指して―」の講演内容がとても面白かった。アントレプレナーシップ教育は、起業化(ベンチャー)を目差すことだけが目的ではなく、その目的を実現するために必要なマインド、能力を養うことであると強調された。そして最大のポイントは、中学、高校、大学の若者の起業化マインドの意識調査で、各国に比べて圧倒的に低く最下位だと言うことである。だいたい想像はできるが、大変ショックである。これについて様々な意見交換があった。相変わらず大企業への就職依存が高く、その原因が両親の考え方や、あえてチャレンジする必要性を感じないためではないかといった意見が出た。でもその一方、大学においては、チャレンジしようとする学生が増えつつあることも報告された。また小中学校教育も昔とはだいぶ変わってきており、起業することの面白さなどが伝わりつつあるとの意見もあった。

北海道大学副理事で産学・地域協働推進機構スタートアップ創出本部長を務める土屋努氏によると、アントレプレナーシップ教育で最も大切なのは、起業化した場合のリスクを如何にマネジメントするかであるとおっしゃった。まさにその通りである。もちろん起業化はビジネスコアが最も大事ではあるが、必ず失敗する。その場合どう対処し次に繋げるかである。

筆者は起業化の経験は無いが、会社員時代あえて他社の研究開発を請け負う仕事をしていた。研究開発は常に技術開発の目標が達成できるかどうか、そのリスクを抱えて仕事をしている。他社の研究開発を請け負う場合、自社の研究開発に比べ会社間の契約であるので目標が達成できたかどうかが最も問題となる。研究者の中にはこれを恐れ他社の研究開発に対して尻込みする場合が多々ある。つまり目標が達成できなかったときのリスクを恐れるのである。リスクと背中合わせの仕事をするという意味では、起業化と似たところがある。でも何度か経験するとそのリスクをどうマネジメントすれば良いかが分かってくる。つまり研究を請け負うときの研究計画に中間でのチェックポイントを設けることを提案する。実際に研究をスタートさせ研究の進み具合を見て、そのまま進めて目標が達成できるかを中間地点で依頼元と一緒に見定める。うまくいきそうなときは、問題は無いが、うまくいきそうもないときが問題となる。もちろん一通りだけの研究ではなく、あらゆる角度から研究を行い、その結果で議論する。目標が高すぎたのか、アプローチが適切でなかったのか等、様々な角度で議論する。この議論が大事である。つまり研究の難易度や方向性を今まで進めてきた研究内容から相手と一緒に評価する。目標が高すぎれば目標を見直し次のステップに進めることにする。一方、方向性に問題があればアプローチを見直す。このようにすることでリスクをマネジメントすることができるが、最もリスクマネジメントをうまくやるためのこつは、相手との信頼関係をしっかり持つことである。開発技術の難しさを相手と共有することであると感じている。あなたができないと言うことであれば、この開発は他社もできませんね、と言ってもらえれば救われるのである。

一方起業化においては、土屋氏によると北海道大学での学生による起業化でのリスクは、経験豊かな土屋氏がとるとのことであった。土屋氏は自ら起業を経験している。しかしこれは一般的に他大学での起業化のリスクマネジメントには繋がらない。ここが最も大切であるとの認識を持ち、各大学のアントレプレナーシップ教育を考えなければならい。各地域には、必ず似た経験を持つ人がいるはずで、その人を探し、教育に関与してもらうことが必要である。いずれにしても直接起業化する人を育てることも大事あるが、起業化マインドを持った若者の幅広い集団を作っていくことが最も大切である。

撮影:筆者

その点では本学のゼミナール教育は、課題を成し遂げようと努力する経験を多く体験できるようになっている。直接起業化には繋がらないが、課題を主体的に解決する経験は起業化ポテンシャルを持った人材を多く輩出することに繋がっていると考える。その一方、積極的に起業化を目差す学生を育てる教育も必要であると考える。